「筑波山ガマの油売り口上」は、”売り口上”、
即ち、セールストーク、プレゼンテーションであるので、
次に示す7つの段落で構成されています。

第一段 呼び込み

第二段 足止め

第三段 原料

第四段 製造 

第五段 効能の説明   

第六段 効能の実証  

第七段 値下げ、販売 

  口上の理解を容易にするため段落を表示したものを掲載します。


 大道芸、ガマの油売リ口上

                   第十八代 永井 兵助

 

【第一段 呼び込み】

さあさあ お立ちあい、御用と お急ぎでなかったら、

ゆっくりと聞いておいで。

遠出山越(とおでやまご)え笠の内、

聞かざる時には、物の出方、善悪(ぜんあく)黒白(あいろ)

トント分からない。

 

山寺の鐘がゴォーン、ゴォーンとなると雖も、

童子来たって 鐘に撞木(しゅもく)を当てざれば、

鍾が鳴るのか、撞木が鳴るのか

トント その音色が分からぬが 道理じゃ。

 

第二段 足止め】


さて 手前ここに取り出したる これなる この(なつめ)

この中には一寸八分 唐子(からこ)発条(ぜんまい) の人形が仕掛けてある。

 

我が国に 人形の細工師(さいくし) 数多(あまた)有りと雖も京都にては守随(しゅずい)

大阪表(おおさかおもて)にては竹田縫之(ぬいの)(すけ)近江(oumi)大堟(だいじょう) 藤原の()(そん)

この人たちを入れて 上手名人はござりませぬけれども、

手前のは これ 近江の津守(つもり)細工(ざいく)じゃ。

 

咽喉(のんど)には 八枚の小鉤(こはぜ)を 仕掛け、

背中には 十と二枚の歯車が 組み込んで ござりまする。

 

この棗をば、大道に ()え置くならば 

天の光を受け 地の湿(しめ)りを 吸い上げまして 陰陽(いんよう)合体(がったい)

パッと 蓋を取る時には、

ツカ ツカ ツカ ツカ ツカと 進むが 虎の小走り虎走り、

後ろへ下がって (すずめ) 独楽(こま)どり 独楽(こま)返えし、

また孔雀(くじゃく)(れい)(ちょう)の舞と 

十二通りの芸当が ござりまするけれども。

如何(ika)に 人形の芸当が上手であろうとも、

投げ銭や 放り銭は お断り。

 

手前 大道にて未熟な渡世(とせい)はしているけれども、

(はばか)りながら 天下の町人、泥のついた 
投げ銭や放り銭を

バタバタ拾うようなことは いたしませぬで。

 

しからば、お前、投げ銭、放り銭 貰わねえで

一体 何を以て 商売としているのかい、

何を以て おまんま食べているのかいと

心配なさる方が あるかも知らないけれども、

これなる 此の 看板示すがごとく、

筑波山妙薬(みょうやく)は陣中膏ガマの油。
()のガマの油という膏薬をば

売りまして 生業(なりわい)と致してとおりまするで。

 

【第三段 原料】


さて、いよいよ 手前 ここに取り出(とりいだ)しましたるが 

それ その 陣中膏はガマの油だ。

だが お立ち会い。  
蝦蟇 蝦蟇と 一口に云っても 

そこにも居る ここにもいるという蝦蟇とは、

ちと これ 蝦蟇が違う。

ハハア、蝦蟇かい。

なんだ 蝦蟇んか 俺んちの縁の下や 流し(もと)にもぞろぞろいる。  

裏の(たけ)(やぶ)にだって蝦蟇なら いくらでもいる なんていう顔している方がおりますけれども、あれは 蝦蟇とは言わない。

 

ただのヒキ蛙、(いぼ)(がえる)御玉(おたま)(がえる)か 雨蛙 青蛙 

何の薬石(やくせき)効能(こうのう)はござりませぬけれども、

手前のは、これ四六の蝦蟇だ。四六の蝦蟇だ。

 

四六、五六というのは どこで見分けるかというと、
ほら、此の足の指の数。えー、前足の指が四本、後ろ足の指が六本。

これを合わせましては、蟇鳴噪(しきめんそう)は四六の蝦蟇だ、四六の蝦蟇。

また、この蝦蟇の採れるのが五月、八月、十月でござりまするから、 一名これ、五八十(ごはつそう )は四六の蝦蟇だ。四六の蝦蟇。

 

サテ しからば、此の四六の蝦蟇の()むところ、

一体、何処(いずこ)なりやと言うれば、
これより(はる)か北の方、

北は常陸の国は筑波の郡、
古事記・万葉の古から 歌で有名。

筑波(つくば)()の 峰より落つる男女(みなの)(がわ) 恋いぞつもりて (ふち)となりぬる。」と
(よう)成院(ぜいいん)の歌にもございます 関東の名峰(めいほう)は 筑波山の(ふもと)

臼井、(かん)(ごおり)館野(たての)六所(ろくしょ)、沼田、国松、上大島、東山から西山の嶺にかけまして、

ゾロゾロと はえて おりまする

大葉子(おんばこ)と言う 露草(つゆくさ)をば ()らって育ちまするで。

 

第四段 製造 

 

さてしからば、此の蝦蟇から 此の蝦蟇の油を採るには 

どういうふうにするかって 言いますと、

先ずは ノコタリノコタリ急ぎ足、

木の根・草の根 踏みしめまして、 

山中深く分け入り、
捕らえ来ましたる この蝦蟇をば、

四面に鏡を張り、その下に金網、鉄板を敷く。

 

その鏡張りの箱の中に、この蝦蟇を追い込む。

サア 追い込まれたガンマ先生、

己の(みにく)い姿が 四方の鏡にバッチリと写るからたまらない。

我こそは今業平と思いきや、
鏡に写る己の姿の醜さに、

ガンマ先生、ビックリ仰天いたしまして、

御体(ぎょたい)から油汗をば、
ダラーリ、ダラーリ、ダラーリと流しまする。

 

その流しましたる油汗をば、

下の金網から ぐぐっと()き取り集めまして、

三七は二十と一日の間、柳の小枝をもちまして、

トロリ、トロリ、トローリ煮炊(にた)きしめ、

赤い(しん)(しゃ)に 椰子油(やしあぶら)、テレメンテイナ、マンテイカという

(から)天竺(てんじく)南蛮(なんばん)渡りの妙薬(みょうやく)をば 合わせまして、

良く練って 練って練りぬいて造ったのが、

これぞ これ、
此の
陣中膏は 蝦蟇の油の 膏薬でござりまする。

 

サテお立ち会い。
これにて、蝦蟇の油の膏薬の造り方 お分かりでござりまするかな。
 

エー、分かったよ。
分かったけれども、どうせ
大道商人の

お前の造った蝦蟇の油なんか 

ろくな効き目なんか あるまいと思っているような顔をしている方が おられるようだけれども、

薬というのは 
何に効くのか効能(ききめ)が分からなかったら
 値打ちがねいよ。

 

 【第五段 効能の説明 

しからば、蝦蟇の油の膏薬、何に効くかと()うなれば、

先ずは (しつ)(がん)(がさ)、火傷に効く。

(よう)・梅毒・(ひび)霜焼け(しもやけ)(あかぎれ)だ。

前へ廻ったらインキタムシ、 後ろへ廻ると 肛門(こうもん)の病。

肛門と云っても 水戸黄門様が病気になったんじゃねいよ。

 

これを詳しく云うなれば、

()()(いぼ)()・走り痔・切れ痔・脱肛(だっこう)鶏冠(けいかん)()

鶏冠痔というのは、鶏の鶏冠(とさか)のように真っ赤になる痔の親分だ。

だが手前の此の蝦蟇の油をば、

グットお尻の穴に塗り込むというと、
三分間たってピタリと治る。

まだある。

槍傷・刀傷・鉄砲傷・擦り傷・掠り傷(すりきず)・外傷一切。

 

まだある。

大の男が七転八倒(しちてんばっとう)して(たたみ)の上をば 
ゴロンゴロンと転がって苦しむほど痛えのが これ この虫歯の痛みだ。


だが、手前の この蝦蟇の油の膏薬、

これをば 紙に塗りまして 上からペタリと貼るというと、

皮膚を通し肉を通して 歯茎(はぐき)にしみる。

又 蝦蟇の油 小さく丸めまして アーンと大きな口開いて 

歯の空洞(うつろ)にポコンと入れるというと、

これ又三分間 熱い(よだれ)がタラリ タラーリと出る共に 

歯の痛みピタリと治る。

 

まだある。どうだい、お立ち会い。

お立ち会いのお宅に 小さい赤ん坊はいらっしゃるかな。

お孫さんでも お子さまでもいいよ。

エー。赤ん坊の汗疹(あせも)(ただ)れ、気触(かぶ) なんかには、

手前の此の蝦蟇の油の入っておりましたる

空きは箱・空箱・潰れ箱、

此の箱を見せただけでも ピタリと治る。

 

えー、どうだい、お立ち会い。

こんなに効く蝦蟇の油だけれども、

残念ながら 効かねいものが 四つあるよ。

先ずは 恋いの病と浮気の虫。

あと二つが 禿(はげ)と白髪に効かねえよ。

 

おい、油屋。
お前さん 効かねえものなんか並べちゃって

もう 蝦蟇の油の効能(こうのう)つうのは 終わりになったんじゃねえかと

思っている方がおりますけれども、
そうではごさりませぬ。

も一つ大事なものが残っておるりまする。

 

第六段 効能の実証

刃物の切れ味をば 止めてご覧に入れる。

ハイッ。
手前 ここに取出したるは、これぞ当家に伝わる家宝にて 

正宗が(ひま)()かして 鍛えた天下の名刀、

元が切れない、中切れない、
中が切れたが先切れないなんていう (どん)(とう)鈍物(どんぶつ)とは 物が違う。
実に良く切れる。

 

どれ位切れるか 抜いて切って ご覧に入れる。

エイ。抜けば 夏なお寒き氷の(やいば)
 津瀾沾沌(つらんてんとん) 玉と散る。

ハイ。ここに一枚の紙がござりまするので、これを切って

ご覧に入れまする。

 

ご覧の通り種も仕掛けもござりませぬ。

ハイ。一枚が二枚。二枚が四枚。四枚が八枚。八枚が十六枚。

十六枚が三十二枚。三十二枚が六十四枚。

六十四枚が 一束と二十八枚。
エイ。
これ この通り細かく切れた。

 

パーッと散らすならば比良(ひら)()(せつ)か、
嵐山には落花(らっか)吹雪(ふぶき)の舞とござりまする。

 

どうだ お立ち会い。
こんなに切れる天下の名刀であっても、

この刀の差表(さしおもて)(さし)(うら)に 手前の この蝦蟇の油塗るときには、

刃物の切れ味ピタリと止まる。

 

塗ってご覧に入れる。 あーら塗ったからたまらない。

刃物の切れ味ピタリと止まった。

 

我が二の腕をば、切ってご覧に入れる。

ハイッ。打って切れない、(たた)いても切れない。

押しても切れない。 引いても絶対に切れない。

 

さて、お立ち会いの中には、なあんだ、

お前の そのガマの油という膏薬は
これほど切れた天下の名刀を 

ただなまくらにしてしまうだけだろうと

思っている方がおりまするけれども、
そうではござりませぬ。


手前、(はばか)りながら、大道商人をしているとは(いえど)も、

ご覧の通り 金看板天下御免のガマの油売り、

そんなインチキはやり申さん。

 

この刀に ついておりまするガマの油、

この紙をもちまして、きれいに拭きとるならば、

刃物の切れ味 また、元に戻って参りまする。

 

さわっただけで 赤い血が タラリ タラーリと出る。

しからば、我が二の腕をば 切ってご覧に入れる。

ハイッ。これ この通り。
赤い血が 出ましてござりまするで。

だが、お立ち会い、血が出ても心配はいらない。

なんとなれば、ここに ガマの油の膏薬がござりまするから、

この膏薬をば 此の傷口に ぐっと 塗りまするというと、

タバコ一服吸わぬ間に
ピタリと止まる血止めの薬とござりまする。

これ この通りで ござりまするで。

 【第七段 値下げ、販売   

さあて、お立ち会い。

お立ち会いの中には、そんなに 効き目のあらたかな

そのガマの油、一つ欲しいけれども、

ガマの油って さぞ高けいんだろうなんて 思っている方が

おりまするけれども、


此のガマの油、
本来は一貝が二百文、

二百文ではありまするけれども、
今日は、はるばる、出張っての お披露目(ひろめ)

男度胸で、女は愛嬌(あいきょう)、坊さんお経で、

山じゃ、(うぐいす)ホウホケキョウ、

 

筑波山の天辺(てっぺん)から 真逆様(まつさかさま)にドカンと飛び降りたと思って、

その半額の百文、二百文が百文だよ。

 

さあ、安いと思ったら買ってきな。

効能(こうのう)が分かったら 
ドンドンと買ったり、買ったり。


  次に段落で区切らない口上文を掲載します。

大道芸 「ガマの油売り口上」

                           第十八代 永井兵助 

さあさあ お立ちあい、御用と お急ぎでなかったら、

ゆっくりと聞いておいで。

遠出山越(とおでやまご)え笠の内、

聞かざる時には、物の出方、善悪(ぜんあく)黒白(あいろ)

トント分からない。

 

山寺の鐘がゴォーン、ゴォーンとなると雖も、

童子来たって 鐘に撞木(しゅもく)を当てざれば、

鍾が鳴るのか、撞木が鳴るのか

トント その音色が分からぬが 道理じゃ。

さて 手前ここに取り出したる これなる この(なつめ)

この中には一寸八分 唐子(からこ)発条(ぜんまい) の人形が仕掛けてある。

 

我が国に 人形の細工師(さいくし) 数多(あまた)有りと雖も京都にては守随(しゅずい)

大阪表(おおさかおもて)にては竹田縫之(ぬいの)(すけ)近江(おうみ()大堟(だいじょう) 藤原の()(そん)

この人たちを入れて 上手名人はござりませぬけれども、

手前のは これ 近江の津守(つもり)細工(ざいく)じゃ。

 

咽喉(のんど)には 八枚の小鉤(こはぜ)を 仕掛け、

背中には 十と二枚の歯車が 組み込んで ござりまする。

 

この棗をば、大道に ()え置くならば 

天の光を受け 地の湿(しめ)りを 吸い上げまして 陰陽(いんよう)合体(がったい)

パッと 蓋を取る時には、

ツカ ツカ ツカ ツカ ツカと 進むが 虎の小走り虎走り、

後ろへ下がって (すずめ) 独楽(こま)どり 独楽(こま)返えし、

また孔雀(くじゃく)(れい)(ちょう)の舞と 

十二通りの芸当が ござりまするけれども。

如何(ika)に 人形の芸当が上手であろうとも、

投げ銭や 放り銭は お断り。

 

手前 大道にて未熟な渡世(とせい)はしているけれども、

(はばか)りながら 天下の町人、泥のついた 投げ銭や放り銭を

バタバタ拾うようなことは いたしませぬで。

 

しからば、お前、投げ銭、放り銭 貰わねえで

一体 何を以て 商売としているのかい、

何を以て おまんま食べているのかいと

心配なさる方が あるかも知らないけれども、

これなる 此の 看板示すがごとく、

筑波山妙薬(みょうやく)は陣中膏ガマの油。()のガマの油という膏薬をば

売りまして 生業(なりわい)と致してとおりまするで。

さて、いよいよ 手前 ここに取り出(とりいだ)しましたるが 

それ その 陣中膏はガマの油だ。

だが お立ち会い。  蝦蟇 蝦蟇と 一口に云っても 

そこにも居る ここにもいる という蝦蟇とは、

ちと これ 蝦蟇が違う。

 

ハハア、蝦蟇かい。

なんだ 蝦蟇んか 俺んちの縁の下や 流し(もと)にもぞろぞろいる。  

裏の(たけ)(やぶ)にだって蝦蟇なら いくらでもいる なんていう顔している方がおりますけれども、

あれは 蝦蟇とは言わない。

 

ただのヒキ蛙、(いぼ)(がえる)御玉(おたま)(がえる)か 雨蛙 青蛙 

何の薬石(やくせき)効能(こうのう)はござりませぬけれども、

手前のは、これ四六の蝦蟇だ。四六の蝦蟇だ。

 

四六、五六というのは どこで見分けるかというと、
ほら、此の足の指の数。えー、前足の指が四本、後ろ足の指が六本。

これを合わせましては、蟇鳴噪(しきめんそう)は四六の蝦蟇だ、四六の蝦蟇。

また、この蝦蟇の採れるのが五月、八月、十月でござりまするから、

 一名これ、五八十(ごはつそう )は四六の蝦蟇だ。四六の蝦蟇。

 

サテ しからば、此の四六の蝦蟇の()むところ、

一体、何処(いずこ)なりやと言うれば、これより(はる)か北の方、

北は常陸の国は筑波の郡、古事記・万葉の古から 歌で有名。

筑波(つくば)()の 峰より落つる男女(みなの)(がわ) 恋いぞつもりて (ふち)となりぬる。」と (よう)成院(ぜいいん)の歌にもございます

関東の名峰(めいほう)は 筑波山の(ふもと)

臼井、(かん)(ごおり)館野(たての)六所(ろくしょ)、沼田、国松、上大島、東山から西山の嶺にかけまして、

ゾロゾロと はえて おりまする

 大葉子(おんばこ)と言う 露草(つゆくさ)をば ()らって育ちまするで。

さてしからば、此の蝦蟇から 此の蝦蟇の油を採るには 

どういうふうにするかって 言いますと、

 

先ずは ノコタリノコタリ急ぎ足、

木の根・草の根 踏みしめまして、 

山中深く分け入り、捕らえ来ましたる この蝦蟇をば、

四面に鏡を張り、その下に金網、鉄板を敷く。

その鏡張りの箱の中に、この蝦蟇を追い込む。

 

サア 追い込まれたガンマ先生、

己の(みにく)い姿が 四方の鏡にバッチリと写るからたまらない。

我こそは今業平と思いきや、鏡に写る己の姿の醜さに、

ガンマ先生、ビックリ仰天いたしまして、

御体(ぎょたい)から油汗をば、タラーリ、タラーリ、タラーリと流しまする。

 

その流しましたる油汗をば、

下の金網から ぐぐっと()き取り集めまして、

三七は二十と一日の間、柳の小枝をもちまして、

トロリ、トロリ、トローリと煮炊(にた)きしめ、

赤い(しん)(しゃ)に 椰子油(やしあぶら)、テレメンテイナ、マンテイカという

(から)天竺(てんじく)南蛮(なんばん)渡りの妙薬(みょうやく)をば 合わせまして、

良く練って 練って練りぬいて造ったのが、

これぞ これ、此の 陣中膏は 蝦蟇の油の 膏薬でござりまする。

 

サテお立ち会い。これにて、蝦蟇の油の膏薬の造り方 お分かりでござりまするかな。

 

エー、分かったよ。分かったけれども、

どうせ 大道商人のお前の造った蝦蟇の油なんか 

ろくな効き目なんか あるまいと思っているような顔をしている方が おられるようだけれども、

薬というのは 何に効くのか効能(ききめ)が分からなかったら 値打ちがねいよ。

 

しからば、蝦蟇の油の膏薬、何に効くかと()うなれば、

先ずは (しつ)(がん)(がさ)、火傷に効く。

(よう)・梅毒・(ひび)霜焼け(しもやけ)(あかぎれ)だ。

前へ廻ったらインキタムシ、 後ろへ廻ると 肛門(こうもん)の病。

肛門と云っても 水戸黄門様が病気になったんじゃねいよ。

 

これを詳しく云うなれば、

()()(いぼ)()・走り痔・切れ痔・脱肛(だっこう)鶏冠(けいかん)()

鶏冠痔というのは、鶏の鶏冠(とさか)のように真っ赤になる痔の親分だ。

だが手前の此の蝦蟇の油をば、

グットお尻の穴に塗り込むというと、三分間たってピタリと治る。

まだある。

槍傷・刀傷・鉄砲傷・擦り傷・掠り傷(すりきず)・外傷一切。

 

まだある。

大の男が七転八倒(しちてんばっとう)して(たたみ)の上をば ゴロンゴロンと転がって苦しむほど痛えのが

これ この虫歯の痛みだ。


だが、手前の この蝦蟇の油の膏薬、

これをば 紙に塗りまして 上からペタリと貼るというと、

皮膚を通し肉を通して 歯茎(はぐき)にしみる。

又 蝦蟇の油 小さく丸めまして アーンと大きな口開いて 

歯の空洞(うつろ)にポコンと入れるというと、

これ又三分間 熱い(よだれ)がタラリ タラーリと出る共に 

歯の痛みピタリと治る。

 

まだある。どうだい、お立ち会い。

お立ち会いのお宅に 小さい赤ん坊はいらっしゃるかな。

お孫さんでも お子さまでもいいよ。

エー。赤ん坊の汗疹(あせも)(ただ)れ、気触(かぶ) なんかには、

手前の此の蝦蟇の油の入っておりましたる

空きは箱・空箱・潰れ箱、

此の箱を見せただけでも ピタリと治る。

 

えー、どうだい、お立ち会い。

こんなに効く蝦蟇の油だけれども、

残念ながら 効かねいものが 四つあるよ。

先ずは 恋いの病と浮気の虫。

あと二つが 禿(はげ)と白髪に効かねえよ。

 

おい、油屋。お前さん 効かねえものなんか並べちゃって

もう 蝦蟇の油の効能(こうのう)つうのは 終わりになったんじゃねえかと

思っている方がおりますけれども、そうではごさりませぬ。

も一つ大事なものが残っておるりまする。

 

刃物の切れ味をば 止めてご覧に入れる。

ハイッ。手前 ここに取出したるは、これぞ当家に伝わる家宝にて 

正宗が(ひま)()かして 鍛えた天下の名刀、

元が切れない、中切れない、中が切れたが先切れないなんていう
(どん)(とう)鈍物(どんぶつ)とは 物が違う。

実に良く切れる。

 

どれ位切れるか 抜いて切って ご覧に入れる。

エイ。抜けば 夏なお寒き氷の(やいば)。 
津瀾沾沌(つらんてんとん) 玉と散る。

ハイ。ここに一枚の紙がござりまするので、
これを切って
ご覧に入れまする。

 

ご覧の通り種も仕掛けもござりませぬ。

ハイ。一枚が二枚。二枚が四枚。四枚が八枚。八枚が十六枚。

十六枚が三十二枚。三十二枚が六十四枚。

六十四枚が 一束と二十八枚。エイ。
これ この通り細かく切れた。

 

パーッと散らすならば比良(ひら)()(せつ)か、
嵐山には落花(らっか)吹雪(ふぶき)の舞とござりまする。

 

どうだ お立ち会い。こんなに切れる天下の名刀であっても、

この刀の差表(さしおもて)(さし)(うら)に 手前の この蝦蟇の油塗るときには、

刃物の切れ味ピタリと止まる。

 

塗ってご覧に入れる。
あーら塗ったからたまらない。

刃物の切れ味ピタリと止まった。

 

我が二の腕をば、切ってご覧に入れる。

ハイッ。打って切れない、(たた)いても切れない。

押しても切れない。 引いても絶対に切れない。

 

さて、お立ち会いの中には、なあんだ、

お前の そのガマの油という膏薬は これほど切れた天下の名刀を 

ただなまくらにしてしまうだけだろうと

思っている方がおりまするけれども、
そうではござりませぬ。

手前、(はばか)りながら、大道商人をしているとは(いえど)も、

ご覧の通り 金看板天下御免のガマの油売り、

そんなインチキはやり申さん。

 

この刀に ついておりまするガマの油、

この紙をもちまして、きれいに拭きとるならば、

刃物の切れ味 また、元に戻って参りまする。

 

さわっただけで 赤い血が タラリ タラーリと出る。

しからば、我が二の腕をば 切ってご覧に入れる。

ハイッ。これ この通り。
赤い血が 出ましてござりまするで。

 

だが、お立ち会い、血が出ても心配はいらない。

なんとなれば、ここに ガマの油の膏薬がござりまするから、

この膏薬をば 此の傷口に ぐっと 塗りまするというと、

タバコ一服吸わぬ間に

ピタリと止まる 血止めの薬とござりまする。

これ この通りで ござりまするで。

 

さあて、お立ち会い。

お立ち会いの中には、そんなに 効き目のあらたかな

そのガマの油、一つ欲しいけれども、

ガマの油って さぞ高けいんだろうなんて 思っている方が

おりまするけれども、

此のガマの油、本来は一貝が二百文、

二百文ではありまするけれども、
今日は、はるばる、出張っての お披露目(ひろめ)

男度胸で、女は愛嬌(あいきょう)、坊さんお経で、

山じゃ、(うぐいす)ホウホケキョウ、

 

筑波山の天辺(てっぺん)から 真逆様(まつさかさま)にドカンと飛び降りたと思って、

その半額の百文、二百文が百文だよ。

 

さあ、安いと思ったら買ってきな。

効能(こうのう)が分かったら ドンドンと買ったり、買ったり。